人には生まれながらにして個性があります。
よく泣く新生児もいるし、あまりぐずらない子どももいます。足や手をよく動かす子もいるし、母乳の飲みっぷりが最初からよい赤ちゃんもいます。こういった生まれながらのその人らしさというものもありますが、反面、子どものこころは一般的にだいたい同じような過程を通じて発達していきます。
こういった人間のこころや脳の発達の道筋を頭に入れながら子どもを育てることは、とても大切です。
ある年齢の子どもの行動がとても健全な発達を示しているのにもかかわらず、お父さんとお母さんがこころの発達の知識を持っていないと、「うちの子どもはおかしいのではないか」と誤解したり、適切でない対応を子どもにしてしまうことがあるからです。
例えば、あるお母さんは、2歳になる息子が口答えをしたり言うことをきかなくなってしまったので困り果てていました。お母さんはそんな時に息子を強くしかると、子どもはひどく泣き叫び、床にひっくりかえって反抗します。それを見ていたお父さんは、「しつけが甘い。もっと強くしからなければだめだ。」とお母さんを批難します。
これは「イヤイヤ期」、terrible twoと呼ばれる二歳児の健全なこころの発達を示す典型的な行動です。この時期に子どもはこのような行動を通して「自我」を確立し始めます。
このときの親の理想的な対応は、できるだけ子どもをコントロールしすぎないようにして、子どもの自主性をサポートしてこころの成長を暖かく見守ることです。この年齢の子どもたちは、自分の力でなんでもしたがったり、まわりの人や状況をコントロールしてみたくなります。幼すぎて自分だけではできないことも多いのですが、それにもかかわらず、自分自身の力を試して「自律」へのステップを踏み始め、「自主性」を高めているのです。
私は幼い時に、自分一人でパジャマのボタンをかけたくて悪戦苦闘していたことを今でも覚えています。私の小さな指ではうまくボタンをかけられなくて、何回も挑戦してみるのですが失敗ばかり。だんだんむしゃくしゃしてきましたが、どうしても一人で完成させたかったのです。
「手伝ってあげるわよ」という優しい声の伯母の申し出を、私は「じゃましないでよ」というように無視しました。とにかく自分でボタンプロジェクトを完了したいのです。伯母はそんな私の態度に「あらー、かわいくないわね」と機嫌を損ねてしまいました。その時の私は、「自分でなにかをやろうとする私は、かわいくない?」と混乱していました。
その時の伯母は、子どものこころの発達の知識を持っていなかったのです。そのとき、私は、伯母には、私のボタンかけの試行錯誤を見守ってくれたり、頑張っている姿を認めて応援して欲しかったのです。
「イヤイヤ期」があるということは子どもさんが「自律」へ向かっていて成長のあかしです!喜んでいいのです。
でも親はたいへんです。「自律」へ向かう子どものすさまじいエネルギーをしばらくの間、受け止め続けなくてはならないのですから。私は「イヤイヤ期」のお子さんを受けとめているお父さん、お母さんたちに、たとえ知らない人であっても、「たいへんですね。忍耐がいりますね。」と笑顔で応援の無言のまなざしを送ることにしています。たいていの人は「そうなのよ。ほんとうにたいへん。正直うんざりなのよ。でもがんばるわ。」とでも言いたげな目でメッセージを私に返してきます。
子どもが「自律」へ向かっているのだということを理解しているだけで、しつけの仕方も変わります。親子関係も良好になります。
こころの発達の知識を学びたい方は、どうぞ私の子育てワークショップに参加したり、個人セッションにいらしてください。最新の心理学や脳科学に基づく知識をお伝えします。