今年も早や四分の一が過ぎてしまいました。皆さまお元気にお過ごしですか。

 

若いころ、足しげくスキー場に通っていた私は、先日行われていた冬季オリンピックのTV中継にかじりついていました。競技はもちろんすばらしいけれど、ときおりTV放送の中に織り込まれる選手の人生の足跡には、心打たれるものがたくさんありました。たとえば、日系アメリカ人Apolo Ohno選手は、一世である父親Yukiさんに男手一つで育てられたそうです。Ohno選手が思春期にさしかかり、エネルギーいっぱいで荒れていたときには、父と子の間に大きな葛藤があったそうです。異国で他の家族からのサポートがない中、仕事をしながら息子を一人で育てていくというのは、ほんとうにたいへんなことだったでしょう。その父と子の姿を想像した私は涙が止まりませんでした。長野オリンピックで、息子が試合の途中で勝負をあきらめてしまったように見えた父は激怒したそうです。「人生で全身全霊を捧げられるものを探さないといけないよ。おまえにとって、スケートはそれに値するものなのかい?」と父は語り、思春期の息子に静かに考える時間と場所を与えました。6日間熟考した末、Ohno選手は「スケートをやる」と決意、そのときから真剣に練習に打ち込んだそうです。父は息子に、自分の人生の選択をさせる「責任」を負うプロセスを、このような形で教えたのですね。父は息子に、「スケートをやったほうがいい」とか、「やらなきゃいけない」、「やめろ」などということは言わず、自分でよく考えて選びなさいと託したのです。そして父は息子を突き放すのではなく、息子が選択したことに、寄り添ってともに歩むという形で精神的にサポートを続けています。Ohno選手は今大会のレース直前に言いました。「今この瞬間を楽しみたい。」 I want to enjoy the morment.

 

場面変わって、先日すぐれた映画に与えられるオスカー賞の授賞式がありました。今年は、私の好きなドラマ部門がとても充実して、とても嬉しく思っています。ノミネートされた女優・男優、作成スタッフたちは、オスカー受賞を心から望んでいたことでしょう。多くの女優、男優たちが、やはり「いま、このときを楽しみたい」I would like to enjoy this morment.と、インタビューで答えていたのが印象的でした。受賞できるかどうかという不安や期待、緊張、興奮に焦点をあてすぎず、しっかりと五感を総動員させてこの場を体験・体感したい、このときの経験を心、体、魂に刻みたいということなのでしょう。

 

最近の心理学のリサーチでも、こういったmindfullness、つまり仏教や禅で昔から伝えられてきた心のあり方に通じる姿勢が、人間がよりしあわせ、満足に感じることにつながるようだと、さかんに言われています。私も今日は外に出て、暖かい空気、木の芽の香り、素足で歩く芝生の感触、夕日の色などを、五感を鋭くして、全身全霊で感じ、受け止めて、しみじみと味わってみたいと思います。

 

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